「桜が好きなのかい?」 近くの公園に咲く一本の桜の木の下で、桜の花を眺めていると、 公園の庭師のおじさんが話しかけてきた。 「ええ、日本を思い出すもので」と言うと、「桜ってのは、もともと日本から来たのかな?」と聞いてきたので、「分からない、そ…
かつて、毎日ダブリンの中心街オコンネル・ストリートのど真ん中に立って歌う女性がいたと言う。 2014年に惜しくも亡くなられたそうだが、 それまで彼女はほぼ毎日街頭に立ち、歌い続けたそうだ。 そして、その原因は分からないが、声を失ってしまった後も、…
「結婚式は、一生に一度ですから!」 異様に熱心な声と真剣なまなざしで、その婚姻手続き担当の若い女性は真向かいに座る私たちに言った。 「おや、ここはウェディングプランナーの事務所だったけな……」と一瞬変な錯覚に陥ったのだが、いや、間違いなくここ…
日本から送った荷物がすべて届いた。 やっと自分の一部が戻ってきたような、なんとも言えない安堵感を覚えた。 郵便局の船便とSAL便を利用したのだが、 SAL便は数週間以内に届き、船便は地域によっては半年くらいかかることもあると言われていたものの、結局…
何気に、これまでに北西部グレンティーズやドニゴール地方、北アイルランドの街アーマー、コーク、ディングル半島など あらゆるアイルランドの街を訪れたが、ド田舎の真っただ中に滞在したのは今回が初めてだったのかもしれない。 相方の従弟様の素敵な計ら…
こちらではよくラジオを聴く。 朝食の時間には、真っ先にラジオの電源を入れ、ポリッジ(オートミール)を火にかける。 こちらへ来て身に着いた「良い」習慣である。日本であまりラジオを聞いたことがないのだが、改めてラジオの良さを感じる。 選挙が近づい…
ある日、相方が突然「内的世界(インナー・ワールド)」という言葉にした。 今読んでいる小説に出てくるらしい。さらに詳しく聞くと、 登場する母親が内的世界に入り込む癖があるという設定なのだそうだ。 それからというもの、その内的世界という言葉がやた…
去年の年末に、突然39度の熱が出た。 次の日、ようやく熱が下がったと思いきや、 突然、喉に激しい、焼けるような痛みが走り、 さらには、手足に謎の湿疹が出現し始めた。 手はたいしたことなかったものの、足の裏は、かゆみが酷く、 かゆみが収まると徐々に…
前々から思っていたことなのだが、「天然」に相当する英語がない。 天然とは、天然の魚とか天然の塩という意味の天然ではない。 性格の「天然」のことである。 もちろん、似たような言葉はあるのだが、 どこかエキセントリックな色がついたり、病的な意味が…
12月のダブリンは、朝9時か10時頃に日が昇り、4時過ぎにはもう暗くなってしまう。 日が短いので、太陽好きな私は、きっとウツになるに違いないと、かなり心構えをしてきたのだが、 いざ来てみると、この薄暗さが逆に独特な雰囲気を醸し出していて、 思いのほ…
昔から、自分の脳みそのデータ容量が人よりも少ない気がしていたが、本当にそうだったらしい。 平均が32ギガバイトくらいだとすると、私は16ギガを通り過ぎて、6ギガくらいなのではないかと思う。 それを超えてしまうと、情報が音もたてずにスルスルと脳みそ…
「橋からの眺め」というアーサー・ミラーの戯曲がある。 最近、ワークショップの通訳のために初めて読んだのであるが、題名を見て、これはまさに私のことではないかとふと思ったのだった。 人生は選択の連続で、「なりたい自分」に向かって日々、誰もが無意…
先月、演劇祭のため、アイルランド北部の街、グレンティーズという街を訪れた際に、相方の友人たちと飲む機会があった。 そして、その中に精神科医の方がいらした。 私が日本人だと知ると真っ先に、 「最近、精神科医の国際学会で《ひきこもり》が話題になっ…
アイルランドを代表する劇作家ブライアン・フリールがこよなく愛した街がある。 そこで生まれたわけでもないのに、最後は、この土地で葬られることを強く希望し、自ら葬式の計画を綿密に練っていたのだとか。 ドニゴールから少し内陸に入ったところにある、…
「生き残るのは、最も強い生き物でもなければ、最も賢い生き物でもない。 結局は、変化に対応できる者が最後まで生き残るのである」 ダーウィン ダブリン市内の博物館の入り口に書かれていた言葉である。 その博物館には、アイルランドに生息していたと言わ…
先日、ダブリンの中心街で、LGBTのフェスティバルが開催された。 虹色の服やメイクで着飾った若者たちが街中を練る歩き、 パブや郵便局、そして、公共の建物にも、虹色の旗が靡いていた。 国立の美術館でも、「LGBTツアー」と称し、 常設の作品に「この作者…
このブログの第一号の記事で、ダブリンに拠点を置く伝統歌唱倶楽部を紹介させていただいた。40年間続いている歌唱倶楽部だ。 何気に、アイルランドと日本を行ったり来たりしながら、かれこれ1年以上この倶楽部に通っている。 毎回ここでは、味のある稀な伝統…
以前に、何もかもが、上手く行っていないと思い込んでいた頃のこと——。 神楽坂のレストランの窓辺で友人と話していると、目の前を女子高生らしき二人組が通りかかった。その制服姿と透明感が、眩しいくらいに清々しかったのを覚えている。 そんな彼女たちに…
ダブリンならまだしも、アイルランドで日本人に出会うのは至難の業である。 意図的に日本料理店に行けば話は別だけれど(ちなみにダブリンには日本料理店がかなりある)、なかなか日本人と出くわすことはない。 そんな中、セントパトリックス・デーにとある…
もうずいぶん前の話であるが、とあるオーディションで「愛の賛歌」を歌う機会があった。 会場で審査委員の前に立ち、「ただふぅ~たり~だけで~」と歌い出した瞬間、 何が原因かは分からないが、今まで聴いたことのない声が突然、腹の底から飛び出てきたの…
Necessary Targets ボスニアに咲く花 無事に終演しました。 立ち会ってくださった方々、応援してくださった方々、Ova9メンバー、すべてのキャスト、スタッフさん、お手伝いに来てくれた方々、みんなに心から感謝です。 出会ってくれて、ありがとう。 この戯…
最近、どれだけ忙しくとも、少なくとも一か月に一度ほどは、立ち止まって冷静に、自分が今後どういう方向へ行きたいかを紙に書き出すようにしている。 途方もない夢というよりは、本当にささやかな願いのようなものをつらつらと書き出す。 自分の声というの…
ちょうど今から50年前、サミュエル・ベケットがノーベル文学賞を受賞した。 その時のベケット本人の反応は、「なんという惨事だ(What a disaster)」だったそうな。 こういう反応を見た時に、賞賛を喜ばない人もいるんだなぁと思う。 いや、意外にももっと…
こちらアイルランドで、観劇をして感想を求められた時に、「嬉しくもガッカリしました(I was pleasantly disappointed)」という答え方があるのだとか。 例えば俳優や演出家の方は、同業者が関わっている作品が素晴らしかった時に複雑な気持ちになることも…
最近では、こちらの人の訛りを聞いて、西の人なのか、南の人なのか、東の人なのか、北の人なのか、少しずつ分かるようになってきた。 アイルランドには本当に訛りが豊富なので、聞いていて楽しい。まるで音楽のようである。 地域によっても、そして階級によ…
ディングルというアイルランド最西端の街へ。 相方さんが撮影で数日間滞在する間、なぜか私も同行させていただけることになった。 ダブリンとは真逆の西の端にある街。さらに海を渡り西へ行けば、もうそこはアメリカだ。 今回の作品の監督さんは、この街出身…
数か月前に、ある不思議な夢を見た。 言葉に表しようのない、美しい、まっすぐな直線を描くような音が聴こえてきて、自分の心がどうしようもなく「そっち」へ惹かれるのだった。 ただそれだけなのだが、単純に、自分がなぜ「表現」というものをやっているか…
「ロミオとジュリエット」には前身となる作品があって、その作品ではジュリエットは16歳だったのを、シェイクスピアは、14歳に引き下げたのだとか。 14歳という年齢に意味がある、と私の大好きな臨床心理士の河合隼雄さんは仰っている。 アイルランドで最も…
いつもは、人の言葉や文章を翻訳しているので、時には自分から湧き上がる言葉を…と思いブログを始めたのだが、昨年の夏も同じような目的で、ダブリンにあるIrish Writers Centerというところで現役の詩人の方から指導していただけるライティングのクラスを受…
当然のことながら、アイルランドの北の国境を超えると、そこはイギリス領になる。 バスも電車も普通に行き来し、パスポートを提示する必要もないが、 やはりその国境を通過すれば、私の相方の携帯の電波は途絶え、通貨は€から£になる。 景色が劇的に変わる…