maimaiomaiのブログ

アイルランドと日本の狭間で 言葉を解き、紡ぎなおす者として

2021-01-01から1年間の記事一覧

タップダンスの神様

同じ言語が話せるからといって、コミュニケーションがとれるとは限らない。 アメリカにいたころ、近所に同い年のサラという女の子がいた。学校で同じクラスだったが、最初は教室ですれ違うくらいだった。それが、サラが病気をしたときに、母がずっと大事に育…

褒められもせず、苦にもされず

庭には毎日、6種類以上の鳥がやってくる。 冬は、野菜が育たなくて物淋しい庭も、鳥たちのおかげでずいぶん華やぐ。 ヨーロッパコマドリは、毎日同じ場所でポーズをする。毎日変わらない角度で、じぃっと壁の上でポーズをとったあとに、ヒマワリの種に食ら…

アイルランドの神社

イチイの木 約3年ぶりに髪を切った。 先日、鏡に映った自分がシャーマンにしか見えず、いたたまれなくなり、さっそく切ることにした。 3年間伸ばし続けたことに、あまり意味はない。特に切りたいと思わなかったし、伸ばしたいとも思わなかったので、伸ばし…

サンタのいないクリスマス

幼い頃、私にとってサンタは神だった。 サンタが来なければ私の人生は終わると心から信じていた。むかし、母が焼いたサンタ型のクッキーがたくさん乗った鉄板を床に落としてしまい、すべて割れてしまったとき、ソファーの後ろに隠れて絶望的になっていたのを…

美しさを愁いて

「世の美しさを愁える 一瞬で過ぎ去る美しさよ」 カフェに座って珈琲をすすっていると、そばに座った中年の女性が突然、 パトリック・ピアースの詩を朗々と詠みはじめた。 現実と夢のはざまの細い空間を見つめるような少女のような瞳。真っ白な髪の毛をきれ…

ラストワルツは私に

「すべてのバスの運転手に捧げる」 最近翻訳させていただいた、現在シアターグリーンBase Theaterで上演中のアイルランド戯曲「橋の上のワルツ」(ソニア・ケリー作)の冒頭部分に書かれた一文である。 戯曲と向き合っていると、その内容に近い出来事を引き…

A Story to Tell

以前、ナレーションの仕事をしていたとき、プロデューサーの方が、敢えてナレーターという言葉を避け、「ボイス・アーティスト」とおっしゃっていた。 なるほど、肩書を変えるだけで、ずいぶんと印象が変わるものだ。 北愛蘭のベルファストへ行ってきた。 コ…

夏の香り

ウェストポートの橋 夏の香りが漂った。 夏でも涼しいアイルランドで夏の香りがするのは珍しいのだが、最近は暑い日が続いた。その香りは、いつも夕暮れ時に漂う。ギラつくような熱を帯びた香りというよりは、日中の暑さが残していった「忘れもの」のような…

魔女が舞い降りる

先日、我が家に魔女が舞い降りた。 近所に、私の相方がよく知る女優さんが住んでいる。ベテランの舞台女優である彼女は、はち切れんばかりのエネルギーの持ち主で、道端で会うと、瞬く間に「近況報告」という名の舞台がはじまる。はじまれば、終わるまで1時…

バスルームより愛をこめて

家は、夜にその魅力を発揮するらしい。 先日、月を見上げるために庭へ出たあと家の中に入ると、ダイニングテーブルに置かれたランプの光が顔に当たり、新聞を読む相方の姿が見えて、何とも言えない安堵感をおぼえた。 こちらへ来て「家」の概念が大きく変わ…

私の空き部屋

人は誰もが空き部屋を抱えているらしい。 外部からの刺激がなければ、埃をかぶったまま永遠に空き部屋として放置されるのだろうが、アイルランドの文化は、私の埃まみれになっていた空き部屋を、次から次へと開拓していく。 第一回ロックダウンから1年が過ぎ…

和して同ぜず

ある日、「最近、近所にインコが出没しているらしいのよ」と近所のおばさまが言った。 目撃情報を耳にするようになったのは、今年に入ってから。 以来SNS上で野生のインコの写真が出回るようになった。 最近、ほぼ毎日小鳥さんたちの観察をしているのだが、…

「孤」であるということ

リサ・オニールという歌手がいる。 ラジオから彼女の歌が流れれば、一瞬で耳が反応する。伝統の歌や自身のオリジナル曲を歌うことが多いが、あのトム・ウェイツの曲でさえも、たちまち自分のものに塗り替えてしまうほどの独特の個性の持ち主なのだ。私はこう…

妖精に連れ去られた女

Hidden in plain sightという言葉がある。 「ありふれた風景の中に溶け込んでいる」という意味だ。 アイルランドに生育する小鳥たちは、まさにこの言葉がぴったりである。 あまりにも自然に風景に溶け込んでいるので、神経を研ぎ澄ませなければ見逃してしま…

惜しみなく歩け

2月1日の聖ブリジットの日は春の到来を意味するが、 実際に春の気配を感じたのは、2月16日の今日であった。 決して花がいっせいに咲き始めたわけではない。心が浮立つような軽やかな空気が鼻をかすめたとき、おのずと予感が確信に変わったのである。 約1年間…

傷は当たりまえのように

ヨーロッパコマドリがいつもとは違う歌を歌っている。 ヨーロッパコマドリは冬の間も歌い続ける稀な鳥である。 去年の春頃に見事な歌声を披露していたミソサザイはまだ静かだが、 我が家の庭の石垣を、マウスのようにちょろちょろと移動している。 そのうち…

あともう少し、がんばろう。

クリスマスにチョコレートケーキを作った。 溶かしたチョコレートを生クリームにいっきに混ぜすぎたのか、生クリームが固まって、顔に塗る泥パックのようになってしまった。 それでもあきらめずに、クリームの上に板チョコを細かく削ったものを上にふんだん…