maimaiomaiのブログ

アイルランドと日本の狭間で 言葉を解き、紡ぎなおす者として

2022-01-01から1年間の記事一覧

降伏は幸福なり

ベルファストのクイーンズ大学で開催された戯曲翻訳フェスにお呼ばれした。 翻訳した戯曲を日本語で読んでくれ、と言うのである。 基本的に、私は自分のことを信じていないので、こういうお声がけをいただくと、まず鎧を着て逃げの体制に入るのだが、最近は…

受け入れて、疑って

どんな芸術家も、孤独に耐え、誰も通ったことがない道を選び、 他の思想が世を支配する中、自分の思想を受け入れる。 自分自身の言葉を使って世を批判することが、小さすぎることだと決して思わないこと。 かつて、詩人ウィリアム・バトラー・イェーツがこん…

不完全

その昔、人の字で人を評価する癖があった。 手書きで手紙を書くことが少なくなってからは、そんな癖も、癖ではなくなりつつある。仕事柄、人を分析する習慣はけっして悪いことではないと思うのだが、アイルランドへ来てから、人の部屋の汚さや綺麗さ、人の字…

空白

どちらかというと、ペットや動物にはあまり縁のない人生を送ってきた。 一度、ハムスターと金魚を飼ったことがあるけれど、それくらいである。カリフォルニアに住んでいた頃は、アライグマが屋根の上に住んでいた。時々夜になると巨大なネズミのような風貌を…

口実

吉報や朗報というのは、普段連絡しない人に連絡する口実になるものだと思う。 朗報がなければ人に連絡してはならないと思い込む癖があるのだが、最近、そんな自分の癖について、じっくり顧みることがあった。相方が「そんなものを待っていたら、いつまでたっ…

月が輝く夜に

時に計画性のなさが吉と出ることがある。 思いがけない出会い、予期せぬ出来事。それは、計画通りに物事がうまく行くことよりも感動が伴う。私たち夫婦が計画性がないのは、単に性格でもあるのだが、どこかで、そういう感動を求めているからなのかもしれない…

変わる時はひっそりと

日本だと、春が別れと出会いの季節だが、こちらでは、九月がそれに当たるのだと思う。 そういえば、昔住んでいたアメリカもそうだった。9月がはじまりの月。新しいクラスメイトや、封を切ったばかりの文房具の匂いが、切ない秋の香りと重なった。 アイルラ…

墓碑に刻まれた言葉

詩人ウィリアム・バトラー・イェイツは、ダブリン生まれだが、南仏で死に、アイルランドのスライゴ―に埋葬されることを強く希望した。劇作家ブライアン・フリールは、生まれは北アイルランドだが、自身がこよなく愛したアイルランド西海岸のドニゴールに埋葬…

最後のひとかけら

言葉というのは、絶えず、かならず他の言葉とぶつかる。 ぶつかるというか、重なっていくわけですね。 井上ひさし 何かが足りないのは分かっているが、何が足りないのかが分からない。そんな悶々とした日々を過ごし、ふとある朝、歯を磨きながら、そのミッシ…

都会の香り

久しぶりに、都会の香りを嗅いだ。 東京も、パリも、ニューヨークも、同じ香りがする。不思議と、ダブリンはまだ都会の香りがしない。あの都会の香りは、一体何でできているのだろうといつも思う。 約二年半ぶりに飛行機に乗った。自分が参加しているメンタ…

上手に忘れて

先日、とても懐かしい友人から連絡があった。 アメリカに住んでいた頃、仲良くしていた友人である。日本に帰国してからもしばらく文通していたのだが、いつのまにか連絡を取らなくなっていた。いつ、なぜ、連絡を取らなくなったのかは、まったく思い出せない…

劇場支配人の猫

「作家の言葉をどれだけ吸収しても、常に新たな言葉を受け入れる余裕を持つ劇場の懐の深さ」 とは、かつて通訳でご一緒させていただいた演出家ルティ・カネルさんの言葉だ。 いつだったか、客席に座り、劇場の客電が落ちて劇がはじまるのを待つ間、妙に心が…

猫と女

初めて人に会うと、この人は、犬派だろうか猫派だろうか、と勘繰る変な癖がある。 いつからそんな癖がついたのかは、思い出せない。 特に理由はないのだが、なぜかそういう無意味なことをしてしまう。だが、私が猫派か犬派かと聞かれると困ってしまうし、私…

笑いの源

何事も笑いに変換できる人が、とても好きだったりする。 笑いは輸入できないとよく言うが、思えばここ数年間、どうやってこのアイルランド戯曲特有のブラックな笑いを日本の観客に届けようか、悶々と考えていたように思う。このアイルランドのブラックな笑い…

はじめまして。

コマドリが手に止まるようになった。 近くのボタニカルガーデンに生息するコマドリさんたちがやたら人なつっこく、いつも私についてくるものだから、ひまわりの種を持ち歩くようになった。ひまわりの種を手の上に乗せ、手を前に差し出すとすぐに手の上に乗っ…