maimaiomaiのブログ

アイルランドと日本の狭間で 言葉を解き、紡ぎなおす者として

2023-01-01から1年間の記事一覧

筆を走らせる闇

アイルランドが文学大国なのは、冬の闇が長いからなのではないかといつも思う。 闇は、筆を走らせる。 昨夜は、ダブリン市民にとって大変衝撃的な一日だった。闇が深まる頃になると、こういった事件が起きる頻度が高くなるように感じる。ダブリン市内では、…

どちらでもない

出会いに溢れた9月だった。 こちらの演劇界にいると、自分の代名詞をThey/them(彼ら)とするノンバイナリーのアーティストと出会うことが多々あり、代名詞を使うたびに緊張していたのだが、そんなことも最近は少しずつ慣れてきたように思う。ノンバイナリ…

タテ社会に、さようなら

こちらにいると、日本で体に染みついていたタテ社会の心得のようなものがどうしても邪魔になる。邪魔になるどころか、失礼になることが多い。 そして、このタテの構造を取っ払ったとき、自分の真の姿が見えてくる。目上の人を敬うわけでも、年下の人を励ます…

思い込み

奇妙なことが起きた。 最近、急に本がスラスラ読めるようになったのである。私は昔から本を読むのが人一倍遅く、文字を追っていても、気が付けば空想の世界に入ってしまって、全くコトバが入ってこなかった。それがある日突然、スラスラ読めるようになっただ…

妖精を探して

昔から、子どもの頭には妖精が住んでいると信じていた。 東南アジアの国で子供の頭を触ってはならないのは、きっとこのせいだと思い込んでいた。 だいたい、この妖精は、7歳頃から荷づくりをはじめて、10歳になる頃には、もっと幼い子どもやお年寄りの頭…

果てしない、果てしない

小鳥は、なんの前触れもなく突如姿を消すことがある。 鳥で賑やかだった空間は静寂に包まれ、何か悪いことをしたのだろうかと罪悪感に襲われるのだが、その後まもなくして、何事もなかったようにワラワラと戻ってきて、やがて雛たちの声で賑やかになる。 人…

重い女

鳥の世界にも、重い女はいるらしい。 可愛がっているコマドリ、うたこに妻(ベティー)ができた。この時期になると、巣作りがはじまり、雄が雌に餌を与える。その際に、雌は「餌をおくれ」と、チッチッチと鳴く。そこではじめて性別が分かるのだ。うたこ、と…

1ミリの勇気

鳥の巣箱の中を撮影した映像にはまっている。 特に、赤ちゃん鳥がはじめて巣から飛び立つ瞬間をとらえた映像が秀逸なのである。一番目に飛び立つ小鳥は、躊躇なく、いきなり巣から飛び降りる。それを見た兄弟たちは大きなショックを受け、「今の、見たか?あ…

儀式

その昔、内なるものを外に出すとき、人は儀式を行ったという。 例えば、食を欲する心が、動物に向かって矢を射るという行為に発展するとき。一枚の設計図が、家に変わるとき。数十枚にも及ぶ台本が、何十名という役者や踊り子を動かすとき。冬の間眠り続けた…

言葉を尽くし、言葉をなくす

Irish Writers’ Centreのライティング・グループに参加したときのこと。 こちらには、書く人たちによる任意の集まりが、いくつもある。そうやって、お互いに書いたものをシェアし、切磋琢磨する。 このグループは国際色豊かで、ウクライナ、ベラルーシ、ロシ…

怒りは慈悲に

「怒りは慈悲に」、という言葉を聞いたことがある。 思えば、私の知り合いで慈善活動に従事している人は、怒りを抱えた人が多いように思う。 その怒りの裏側には、正義感なり、弱者をかばう想いなどが潜んでいるのかもしれない。 ダブリンに移住してからとい…

いつか辿り着く場所

実にせわしない年末だった。 夫がゴールウェイでの公演中に肺炎になったうえ、顔面から転倒。フェイスタイムで夫の痣だらけの顔を見たときはぞっとした。 時間外の医者もつかまらず、結局公演が終ってからダブリンの病院の救急に駆け込んだのだが、なんと1…