maimaiomaiのブログ

アイルランドと日本の狭間で 言葉を解き、紡ぎなおす者として

ジュリエットは14歳

 

ロミオとジュリエット」には前身となる作品があって、その作品ではジュリエットは16歳だったのを、シェイクスピアは、14歳に引き下げたのだとか。

 

14歳という年齢に意味がある、と私の大好きな臨床心理士河合隼雄さんは仰っている。

 

アイルランドで最も度肝を抜かれたのは、その微妙な年齢「14歳前後」であろうと思われる子たちの、はち切れんばかりのエネルギーだった。

 

去年の夏は、世界中で異常気象が相次いだが、アイルランドでも記録的な干ばつに見舞われた。

1か月ほど滞在していた間、雨は一度も降らず、いつもは青々とした芝生が、黄金色になっていた。

しかし、普段は曇りや雨が多いアイルランド

燦燦とした太陽が、その「14歳」たちの「何か」を刺激してしまったようである。

 

 

ある日、私たちは電車に乗って、近くの海へと向かった。海に到着すると、

何やら、巨大なスピーカーを抱えながらティーネージャーたちの集団がワイワイと楽しげに歩いている。

 

女の子たちも男の子たちも、どこか背伸びをしているような

何とも言えない危うさを放っていた。

 

そして、スピーカーからは大音量で今時のポップ音楽が流れていた。

「今こういうことが流行っているのかしら…」

その時は、彼等を横目で見ながら普通にやり過ごしたのだが、帰りの電車を駅で待っていると、またその集団が駅へわらわらとやってきた。

今度は、音楽は流していないので、ほっとしていたのだが、なんと、電車に乗った瞬間、突然私たちの乗っている車両がバブル時代のディスコと化した。

 

 

いきなり大音量でポップ音楽を流すと、ティーネージャーたちは、周りなど構わず、歌いながら、狂ったように踊りだした。

音に少々敏感である私にとっては、気絶しそうな音量である。

 

よくYouTubeなどで、ニューヨークの地下鉄でアーティストが演奏している映像が流れているが、そんな素敵なもんじゃあない。

 

挙句の果てに、向かいの席に座っていた女の子が、「プシュー!!!!」と凄まじい香りのものを吹きかけた。

自分の身体に吹きかけたのだろうが、私たちの目の前に、たちまち煙がもくもくと漂い、息ができなくなる。

おそらく、体臭用のスプレーであろう…。

 

唖然としつつも、咳をこらえて顔をしかめている私たちに向かって彼女は、

 

「かかっちゃった?ごめんね。でも、臭いよりよくない?」

 

とサラっと何の悪気もなく言う。

何と言い返せばいいのか分からず、思わず不気味な笑い声が口から漏れた。

 

 

誰かが通報したのか、ある駅に停車すると駅員らしきガタイのいい男性が数人ぞろぞろと入ってきて、「ほら、静かにせんかい」的なことを言い放つ。

 

一瞬スピーカーを止め、「はぁーい」と答える女子たち。しかし、彼らが電車から降りていくや否や、悪そうな笑みを浮かべて、すかさずスピーカーのスイッチをオン。

 

まるで、動物園の檻の中に放り込まれたように、どうすることもできず、硬直したまま座る私たち。横を見ると、隣に座っていた大人2名も、同じく硬直している。

日本では、「叱る大人がいなくなった」とよく聞くが、いや、どこも一緒なのかもしれない。

 

さすがに痺れを切らした私と相方さんは、次の駅で逃げるようにとなりの車両へ避難。

すると、同じ車両にいた年配の女性も涙目になりながら一緒に移動してきた。

 

ティーネージャーから必死に逃げる大人たち。

なんなんだろう、これは。

 

この出来事をのちにライティングの先生に話すと、

「私たちは、熱(太陽)に慣れていないのよね…」

と首を振りながら答えた。 その時ふと、カミュの「異邦人」に出てくる「太陽が眩しかったから」という台詞が脳裏をよぎった。

 

 

そして、昨年の10月にアイルランドに滞在した際に、「Rathmines Road」という芝居を観に行った時のこと。

 

比較的空いている客席で開演を待っていると、空いていた客席が瞬く間に、これまた14歳前後らしきティーネージャーたちで埋めつくされた。どうやら授業の一環らしい。

 

夏のトラウマがよみがえる。

凄まじいエネルギー。セルフィ―のオンパレード。そして、うるさい…。

 

しかし、芝居が始まった瞬間、嘘のように辺りは静まり返った。

これはもう、本当に驚くほどに突然、静かになったのである。切り替え能力の高さに感動してしまった。

 

この芝居は、性的暴力がテーマであった。レイプの被害者が名乗り出ることによって、双方の家族が傷つくことになる。家族が崩壊するリスクを負ってまで、名乗り出る必要はあるのか――、そんな深い内容であった。

こんな際どいテーマの舞台を、そのティーネージャーたちは最後まで真剣に見ていた。

そして、終わった後のQAでも、積極的に質問をしている。

 

それまで恐怖を抱いていた彼等に対する好感度が上がってゆく。

それに、こういう観劇を授業の一環にするとは、なんて素晴らしいのだろう、と感激してしまった。

 

 

14歳かぁ。

突然、なんとも感慨深い思いでいっぱいになる。

 

ちなみに私が14歳の頃は、ドラマの主人公になり切りすぎて、自分が誰なのかが全く分からなくなっていた。アイデンティティーの欠片もないほど、私の足は地面から浮いていたように思う。

友人たちも3か月ごとに(ドラマは3か月周期で入れ替わる)私のキャラが変わるものだから、酷く困惑していた。

 

確かに、14歳と16歳は、違いがあるかもしれないな。

あの危うさ、あの正直さ、あの大胆さ。

 

それにしても、太陽の力は凄い。

次、アイルランドで日照りが続いた時は、電車には乗らないようにしよう。

 

 

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