maimaiomaiのブログ

アイルランドと日本の狭間で 言葉を解き、紡ぎなおす者として

夏の香り

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ウェストポートの橋

夏の香りが漂った。

夏でも涼しいアイルランド夏の香りがするのは珍しいのだが、最近は暑い日が続いた。その香りは、いつも夕暮れ時に漂う。ギラつくような熱を帯びた香りというよりは、日中の暑さが残していった「忘れもの」のような香りだ。その時間帯になるとなんとも名残惜しくて、相方に夕食の皿洗いを託し、お庭の椅子に座ってボーっとするのが日課になっている。

またすぐに秋の哀しげな空気がやってくる。今のうちに、この香りを楽しんでいたい。

セミが騒がしく鳴く、日本の夏が懐かしい。

 

我が家の庭では、毎日蜂がせわしなく豆の花を次々に回り、

モンシロチョウがハタハタと舞いながらケールを誘惑する。

 

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先日、庭の鉢植えを動かすと、下から立派なミミズがウニウニと這いでてきた。そのまま素手で掴み、コンポストの中に戻したのだが、それを見ていた相方が、目を丸くして、「もしかして今、素手でミミズをつかんだ……?」と聞いてきたので、「そうだよ」と答えると、興奮気味に、「見直した!すごいじゃないか!」と言う。ふだん滅多に褒めない相方が、ミミズを素手で掴んだだけで私を大絶賛し、感激している。何を基準に人を評価しているのかよくわからないが、褒められて悪い気はしない。

考えてみれば、算数の成績が良かったからではなく、徒競走で一等賞をとったからではなく、ミミズを素手で掴んだからといって生徒を褒める先生がいてもいいかもしれない。なんたって、これからの時代、自然をもっと大切にしていかなければならない。

 

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先日、メイヨー県にあるウェストポートという街へ行ってきた。かつて鉄道が走っていた線路が自転車用の道になっていて、何十キロにもおよぶサイクリングトレイルが用意されている。湿地が広がる大自然のど真ん中で自転車をこいでいると、すべての心配事が吹っ飛んだ。ちょうど、しつこい空咳が続いていたのだが(数年前から続いている、突然襲うもの)、自転車をこぎながらおのずと無の状態になって、スーッと咳が引いていくのを感じた。

 

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70キロ以上のトレイルを、2日間にわたって走った。足はパンパンで、レンタルの安い自転車だったのもあり、上り坂は特にやられた。「ああ、もうダメかもしれない」を通り越した後の爽快感。走り切った後に浴びるシャワーの気持ちよさ。

 

それは最近とある企画で体験した、ピンチを乗り越えた後のすがすがしさにとても似ていた。

かつて恩師が「ピンチはチャンス」と言っていたのを思い出す。

ありふれたオルゴールのように聞き流していた言葉だが、なるほど、こういう意味だったのかと、一見ポップに聞こえる言葉の持つ深い意味が、体に落ちた瞬間であった。

自分で一度も引き出したことのない力が湧いてきて、私の身体に自信となって刻まれた。

 

とりあえず一つのピンチを乗り越えて、翻訳させていただいた戯曲が9月にリーディング上演される。ソニア・ケリーさんというアイルランドの旬の劇作家による作品だ。アイルランドストーリーテリングの手法を生かしつつ、観る者の五感を刺激し、詩的な言葉がリズムよく連なる。

あっという間に引き込まれる疾走感のある素敵な作品だ。

いつの間にか、勝つこと、認められることに夢中になってしまった現代人に捧げる寓話のような短編戯曲。ぜひともチェックしていただきたい。

 

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「Plays 4 Covid 孤読/臨読~コロナ禍で生まれた海外戯曲~」

コロナ禍に4つの国で上演・配信された短編戯曲集。全作品本邦初公開!

8月16日チケット販売開始。

2021年9月16日(木)~19日(日)

シアターグリーン Base Theater(池袋演劇祭参加)

「橋の上のワルツ」(ソニア・ケリー作)

https://iti-japan.or.jp/info/7650/

 

 

8月6,7日 Ova9 生演奏と語りで贈るクローゼットドラマ「Necessary Targets ~ボスニアに咲く花~」 

渋谷Space EDGE

https://www.facebook.com/Ova9actress

 

 

ワールド・シアター・ラボ 「サイプラス・アヴェニュー」(デビッド・アイルランド作)

2月の公演に先駆けて9月に開催される戯曲解読ワークショップの参加者募集中。

海外の現代戯曲翻訳を探求する「ワールド・シアター・ラボ」開催(2021年9月〜) | iti-japan

 

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