maimaiomaiのブログ

アイルランドと日本の狭間で 言葉を解き、紡ぎなおす者として

思い込み

奇妙なことが起きた。

最近、急に本がスラスラ読めるようになったのである。私は昔から本を読むのが人一倍遅く、文字を追っていても、気が付けば空想の世界に入ってしまって、全くコトバが入ってこなかった。それがある日突然、スラスラ読めるようになっただけでなく、内容がスイスイ入ってくるようになったのだ。まるでカフカの世界である。

あまりにも不思議で、ネットで色々と検索してみた。鬱になって急に本が読めなくなる人はいるようだが、急に本が読めるようになった人の体験談はほとんど見つからない。私は、今までずっと鬱だったのだろうか、と疑ってもみたが、どう考えてもそうは思えなかった。

何かがきっかけで、「私は国語が苦手=私は本が読めない」という考えを頭に刷り込み、ずっとそう自分を洗脳したまま生きてきたのかもしれない。

アイルランドで、少しずつ芸術面でのサポートを受けられるようになってからというもの、「アーティスト」とか「作家」などと呼ばれるようになったのだが、そんな風に呼ばれると、だんだん、その気になってくる。そうすると、作品について考え、筆を執ることが歯磨きのように習慣になり、体に馴染んでくる。おのずと、本を読むことも多くなった。そうやって私の長年の「思い込み」は消えていったのかもしれない。

調子に乗るのはよろしくないが、同じ「思い込み」であれば、前向きに思い込みたいものだ。

こちらでは、ブラジル系移民はベビーシッターをし、アジア系移民はレストランで働き、インド系移民はスーパーでレジを打ち、アフリカ系移民はタクシーを運転する、というのが、なぜか当たり前になっている。そういうことも、集団的な思い込みなのか。自分がマイノリティーであるという実感が日に日に増していくのだが、その分、書きたいことや、表現したいことがどんどん蓄積されていく。

私が書いた詩2編が、アイルランドの長い歴史を誇る文芸誌に掲載されることになった。

文学の国アイルランドは作家に対するサポートが手厚い。このような環境があったからこそ、「私に詩なんて書けるはずがない」という思い込みをすんなりと捨てることができた。今でも自分に文才があるとは思えないが、書きたいことは山ほどある。

絵を描くように、数式を解くように文章を書く人がいたっていい。

夫の大量の本に囲まれた生活も大きく影響している模様。我が家はちょっとした図書館。誕生日も、結婚記念日も、夫からのプレゼントはいつも本なのだ。

イタリアやギリシアで猛暑や山火事が問題になっているが、こちらは雨がやまない。いよいよ地球が危ないと感じながら、祈るように毎週夫とゴミ拾いをしている。生野菜はコンポストし、蜂たちのために花を育て、なるべく歩き、なるべくプラスティックを使わず、新しいものは極力買わない。そんな些細なことしかできないが、ひとりひとりの意識が何か変化をもたらすことを祈って。

 

冬の次に春がきて、春の次には夏が来るという「思い込み」も、捨てなければならない日が来るのかもしれない。

 

Axis Ballymun / axis Assemble Artists

https://www.axisballymun.ie/assembleartists2023

 

Foundation Programme by Irish Writers Centre and Dublin Book Festival

https://irishwriterscentre.ie/announcing-the-2023-iwc-dbf-foundation-programme-participants/

 

Weft Studio by Dublin Fringe Festival

https://www.fringefest.com/news/announcing-weft-studio-artists-2023-2024