maimaiomaiのブログ

アイルランドと日本の狭間で 言葉を解き、紡ぎなおす者として

女性が元気な国

 

どうでもいい話かもしれないが、掃除機を買った。

 

ずっと使っていた掃除機が、爆音を放ちながらも

何も吸っていないことに気付き、

あたかも「仕事してる風」を装っているその感じに、

私の中で苛立ちと怒りが日に日に蓄積していったのである。

 

それでも、だましだまし使っていたのだが、

ある日私の中で何かが爆発し、相方に、

「髪の毛さえも吸わない掃除機なんて掃除機じゃない」

とポロっと、久しぶりに腹の底から声を出したのだった。

 

もともと物を買うのがあまり好きではない相方だが、

流石に私の怒りを感知したらしく、

「掃除機は髪の毛を吸い取るものなのか」と聞いてきたので

「当たり前だ」と答えると、

ようやく掃除機を買うことを承諾してくれたのである。

 

人を説得しようとするとき、やたらに理論立ててするよりも、

結局はきっと、切実でシンプルな言葉が最も響くのである。

 

 

その数日後、私たちは古い掃除機を手に電気屋さんへ向かい、ダイソン様を手に入れた。

噂には聞いていたが、やはりダイソン様は素晴らしい。

100年分の埃と髪の毛をゴソっと吸い取った。

何層にも蓄積した膿を取り除いたような、

どんよりとしたものがまとわりついた「気」をすべて吸い取ったような。

以来、なぜか私はやたらに機嫌がよく、

どれだけ仕事が忙しくても疲れることがなく、ひたすらに希望を感じるのである。

掃除の力はすごい。

 

私たちの家はカーペットなので、掃除機は大変嬉しい買い物だったものの、

基本的に、相方の物を大事にする精神は、とても好きである。

我が家には、60歳、下手すれば100歳くらいの家具が

いくつもひっそりと息をひそめてたたずんでいる。

妹さんが小さい頃使っていたという箪笥には、

子豚ちゃんのシールがまだ貼ってあり、

ダイニングテーブルには、その昔、ご兄弟さんたちが宿題がはかどらなかったときに、

母親の目を盗んで刻んだのであろう名前の跡が残っている。

 

 

こちらでは、自分で家の中のペンキを塗ったり、タイルを貼ったり、

いわゆるDIYが非常に盛んである。

ステイホームの影響か、最近は道を歩いていると、

玄関の扉や、塀を塗りなおしている人の姿をさらによく見かけるようになった。

 

同じブロックに住む若い女性の家では、

激しいドリルの音が聞こえて来るかと思えば、

家のトイレから取り除いたのであろう古い洗面所のシンクなどが

家の前にドンと置いてあったりもする。

よくよく話を聞いてみると、ガスさえも通っていない廃墟に近い家を購入し、

自力で改造しているのだという。

ハンマーなどを使って壁をぶち破ったりしているようで、

なんともたくましい話である。

 

そんな彼女は、「自分の家を持つのが夢だったの」と嬉しそうに笑顔で語った。

 

壁をぶち壊すまではいかないものの、私も負けじと、

60歳、70歳くらいのテーブルと椅子のペンキを塗りなおすことにした。

サンドペーパーで表面を滑らかにする作業が何気に大変だったが、

やはり自分で塗った家具は愛着が湧くものである。

それに、こういった仕事すると、不思議とごはんがいつもの二倍くらいおいしい。

仕事柄、私は自律神経がすぐに狂うタイプだったのだが、

野菜を育て、野菜を洗う水で野菜に水をやり、太陽を浴び、家の家具の修理などをするようになってから、だいぶ改善されたように思う。

 

 

 

掃除機も買い、テーブルにペンキを塗り、最高に気分が良いのを利用して、

先日は、近所の路上パーティーに参加してみた。

前回、脚がすくんで行けなかったのがまるで嘘のように、

今回は、「当たり前のように」参加することができた。

やはり、掃除パワーなのだろうか。

この新たな土地で、怯えることなく、気負うことなく、力むこともなく、

「当たり前のように」できることが今後もっと増えることを願っている。

 

こちらで良い日本食品を手に入れるのはなかなか難しいのだが、

私なりに工夫して、日本食風のものを時々作るようにしている。

最近気に入っているのは、豚バラを長時間湯でてから、

味噌、ごま油、ごま、みりん、しょうが、にんにくなどでマリネにして

オーブンで焼くという自己流料理である。

日本ではあまり使わなかったオーブンだが、こちらではかなり重宝している。

 

 

ふと、これを路上パーティーに持って行こうと思いついたのだった。

ご近所きっての世話好きで、パーティーをいつも取り仕切る女性は、

私の無駄に丁寧に盛り付けてある豚の角煮風を見て、

「まぁ、それはちょっと立派すぎよ。立派すぎ……」と

申し訳なさそうに首を振った。

周りを見てみると、チップスとディップなど、けっこう気楽な感じだったので、

あれあれ、ちょっと気負いすぎだのだろうかと反省したのだが、

嬉しいことに、あっという間になくなって、みんなとても美味しいと言ってくださった。次は、巻きずしを作ろうか、などと、いろいろと想像が膨らむのである。

 

このコロナの危機をきっかけに見事にご近所さんとの距離が縮まった。

お薦めの電気屋さん、トイレの修理屋さんの連絡先など、いろいろと情報交換ができるので

とても便利である。

外に出るたびに、必ず誰かと何気ない会話を交わす。

なにより、この周りの女性たちは、とても元気だ。

路上パーティーの日は、夜遅くまで女性たちの笑い声があたりに響き渡った。

私は昔から、屈託なく、豪快に笑う女性が好きである。

キューバへ行ったときも思ったことだが、女性が元気な国はいい。

キューバの男性たちが、「キューバの女性は世界一美しいんだぜ」と誇らしく語っていたのを思い出す。

 

 世の中にはもちろん不条理なこともあるが、多くは自分次第なのではないかと思う。

いつかのナイジェリア出身のタクシーの運ちゃんの言葉を思い出す。

 

「この国では、こちらさえ心を開けば、相手も必ず開いてくれる」

 

 

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