ベルファストのクイーンズ大学で開催された戯曲翻訳フェスにお呼ばれした。
翻訳した戯曲を日本語で読んでくれ、と言うのである。
基本的に、私は自分のことを信じていないので、こういうお声がけをいただくと、まず鎧を着て逃げの体制に入るのだが、最近は無理やりにでもYESと言うようにしている。最初は滝の中を潜るような恐怖を覚えても、潜った後は、「嗚呼、怖かった。でも、まだ生きてる、万歳」、となる。「人生に必要なのは、勇気と想像力、そして少しのお金」。
私は今まで、臆病すぎて、この「一歩の勇気」を怠ってきた。この年になって、ようやく踏み出せるようになったのだが、もう少し若い時に自分を信じて、どんどん踏み出していればよかったなと今更ながら思う。
フェスは、大変有意義な時間だった。大好きな劇作家ブライアン・フリールの名前がついたクイーンズ大学の劇場で開催された。スコットランドのトラヴァース劇場の小屋付きリテラリー・マネージャーとして数々の作家を輩出してきたキャサリン氏、フランスとアイルランドを行き来しながら活躍する女優さん、クララ・シンプソンさんなど、本当に素敵な方たちと一緒の舞台に立たせていただいた。
クララ・シンプソンさんは、ベケットのNot Iを英語とフランス語で披露した。ここまでしっかりと二言語でベケット作品を披露できる人は、世界中探しても、ほんの一握りだと思う。英語からフランス語に移行していく瞬間は、もう圧巻の一言だった。言語が変われば、身体も、口の形も変わる。
フェスの名も、Words in the Airと言って、舞台空間に放たれるコトバの特殊性を祝うものだった。
劇場の客席の最前列に座り、他の方のパフォーマンスを見ながら、自分の番が来るのを待っていた。
思えばまだ舞台に立っていた頃——例えば、5年前の自分ならば、出番を待ちながら、自分の読む箇所にばかり集中していたに違いない。直前まで身体を震わせて、楽屋で自分の台詞またはステップを練習していたかもしれない。しかし、今回は、直前まで、他の方のパフォーマンスに見入っていた。見入りながら、いつもは自分の身体を蝕んでいく緊張がすっと解けていく瞬間があった。そして、前の方のパフォーマンスを受け継ぐように舞台に上がると、練習していた時は噛みまくっていたのに、不思議とほぼ噛まずにスラスラと流れるように読むことができた。
それは、出演した女性たちの間で、何か不思議なSisterhoodがあったからかもしれない。お互いにしっかりと認め合う、心地いい空気が漂っていた。なんとも、後味のいい経験だった。
爪先が向かいたい場所へまっすぐ向いて、一歩一歩進むごとに、緊張を受け入れていく。なんて言われようと、どうなろうと、これが今の私なんだから——そんなことをつぶやいていると、心地のいい「降伏」感に包まれていった。そうか、降伏は、幸福なのかもしれない。これから、どんどん降伏していこう。
怒涛の11月だった。いくつもの滝を潜り抜けて、僧の修行を終えたような気分。
逃げそうになるとき、いつもかみしめるのは、
とある方からいただいた言葉。
「あなたの心が振り子のように振れるのは、
それだけクリエイティブなことをしている証拠」
嗚呼、怖かった。でも、まだ生きてる、万歳!
- 「ダブリンの演劇人」
作:マイケル・ウェスト in collaboration with The Corn Exchange
12月6日-12月11日 新宿シアターブラッツ
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https://www.ova9actress.com/next-stage
- 「橋の上のワルツ」
作:ソニア・ケリー
12月21日―25日 オメガ東京
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https://itij2022.com/?fbclid=IwAR1j1VIiSxHn2_HO7lZUlgUr9-ErEL4W5AG4Lg9217p38ZzmXNP0tcnG96c