「あなた素敵ね。どこにいても馴染めないでしょう?」
松任谷由実さんがある若手歌手に対して言った言葉だそうだ。
不意にそういう気の利いた言葉が出てくる人をいつも尊敬する。
私が親ならば、子供が環境に馴染めなければ不安で仕方がないだろう。
それを「素敵」「個性」と解釈できる大人がどれほどいるだろうか。
東京を離れて1年が経った。米国から日本へ帰国した当初はなかなか居場所が見つからなかった私だが、なぜか縁もゆかりもない東京には居場所があった。
あの世話好きな大家さんはどうしてるだろう。大家さんの年老いたワンちゃんはどうしてるだろう。私がアパートを引き払った時は既に目も見えず、耳も聞こえない状態だった。
仕事が落ち着き、力が抜けた時に、そんなことがふと頭をよぎる。
アイルランドへ移住してすぐにパンデミックが襲い、近所さん以外人との交流がほとんどない1年だったが、結婚式が少しでも遅かったら家族が集まることはなかった。それに移住も少し遅れたら、コロナで相方と離れ離れになっていただろう。
そんなことを想うと、感謝の気持ちしか生まれない。
結婚の手続きや移住の手続きを相方とああでもないこうでもないと言いながら必死に済ませ、築100年の家がどんどん「家らしく」なっていき、下着や化粧品を買う場所も見つけ、行きつけの医者も見つけた。
初めてこちらで2021年の手帳も買った。アイルランドで初めて買った手帳は淡い水色だった。
髪は1年以上切っていないが、そのうち行きつけのヘアサロンも見つけるのだろう。
移住する前は不安で仕方なった仕事も、なんだかんだ幅が広がった。
責任が伴う、やりがいのある仕事も増えた。
フリーランスは大変なこともあるが、潮の満ち引きのようなリズムが感じられて面白い。
何かが去れば、必ず新しいものが入ってくる。
数年前まで他人と生活するなど想像ができなかった私だが、当たり前のように、毎日相方と寝起きを共にし、ご飯を食べ、穏やかに過ごせていることを不思議に思う。
まだ劇場は閉まったままで映画の撮影も滞っている。ロックダウンが緩和した頃に一度は復活したが、冬の第二波で再び流れが止まってしまった。
そんなこんなで相方は少しばかり元気が無かった。
そんな中、二回目のロックダウンが緩和され、久々にプールが再開。
先日、相方がプールに出かける前に、「プールから出たらきっとエージェント(マネージャーさん)から電話が来るよ」と、適当なことを言って見送ったのだが、プールから出た瞬間、本当にエージェントから電話がかかってきたらしく、おいしい仕事が舞い降りた。
しょんぼりしながら出ていった相方は、ウキウキしながらシャンパンを買って帰ってきた。
なんでも言葉にしてみるものである。
厳しい世の中だが、「めでたさ」や根拠のない前向き思考で、しばらくはなんとかなりそうだ。
この地に馴染めるか、馴染めないかと悩むよりも、
淡々と毎日を丁寧に刻んでいく大切さ。
アイルランドのクリスマスは雰囲気があって、とても好きだ。
去年のクリスマスに比べて、少し寂し気だが、
クリスマスツリーの温かい明りが各家の窓から漏れるたび、心が温まる。
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